京都大学の研究グループは,大阪大学で育成した3次元トポロジカル絶縁体Bi1.5Sb0.5Te1.7Se1.3(BSTS=Bi:ビスマス,Sb:アンチモン,Te:テルル,Se:セレン)の単結晶試料を用いて電気的にスピン流の取り出しが可能な素子を作製した(ニュースリリース)。
この3次元トポロジカル絶縁体とは,材料内部は半導体の性質を示す一方,材料表面は金属の性質を示す新奇な物質。この表面金属部分では電子が極めて早く移動できるほか,情報伝播にエネルギーを消費しない永久スピン流が流れていると予測されている。さらに電流の印加方向によってスピンの向きを制御できるスピン流も生成できると期待されており,スピンを用いた新しいエレクトロニクスデバイスへの応用が期待されている。
現代のエレクトロニクス産業はトランジスタに代表される半導体素子により支えられているが,近年の地球環境問題の深刻化に伴い,低消費エネルギー論理素子の開発の重要性が増している。素子の消費エネルギーを抑えるには,電子が物質の中を運動するときに発生するジュール熱を減らす必要があるが,一つのアイデアとして電気信号の代わりに電子がもつ磁石としての性質(スピン)を使う「スピントロニクス」に注目が集まっている。
スピントロニクスデバイスの実現のためには,素子構成材料の開発が非常に重要だが,最近の研究によってスピントロニクス素子の実現に資する新規材料として今回の「トポロジカル絶縁体」という新しい性質を持った物質があることが分かってきた。
今回の研究では,トポロジカル絶縁体の金属状態に電流を流して生成したスピン流を通常の金属薄膜内(ニッケル鉄合金)に電気的に取り出すことに成功した。また電流の印加方向によってスピンの向きを制御することにも成功した。研究グループではこれらの成果について,スピンを用いた次世代情報デバイスの実現に向けた極めて重要なものだとしている。
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